東大 航空宇宙工学専攻 平成28年 航空宇宙システム学(午前)

航空宇宙システム学

 東京大学大学院 航空宇宙工学専攻 平成28年の航空宇宙システム学(午前)についての総評と難易度、解答の指針についてまとめたいと思います。

本問の収録先商品は以下です。

航空宇宙システム学<https://gakumon-tobira.stores.jp/items/679620e7bfa2872ebcae4fde>

総評

 H28年の航空宇宙システム学(午前)では惑星スイングバイが題材となりました。過去の出題傾向を見ても2025年現在、本問以外に出題実績はなかったように見えるので試験本番でこの問題を見た受験生の多くは敬遠したのではないかと推測します。

 惑星スイングバイは惑星探査ミッションを設計する際の重要な手法であるとともに研究分野としても意義深いものなので、ぜひ押さえておきたいポイントではあります。但し、計算の過程や考え方はなかなかとっつきにくいものなので、学習の敷居は高めであると言えます。

 本問では、双曲線軌道を題材として、スイングバイを行う際の偏向角、速度変化の計算、また実際の惑星の概算値を用いた計算を通してスイングバイの効果を評価させてきています。スイングバイの概念を理解するうえできれいに問題をまとめてきているという印象があり、学習教材としても使いやすいのではないかと考えています。

 そういう意味では単なる院試勉強だけではなく、軌道力学を学びたいと考えている学生にとって良い演習問題になると感じています。

 ちなみにですが、2015年(平成27年)の12月に小惑星探査機はやぶさ2が地球スイングバイを成功させていました。そうした学術的なイベントに関心を持ってもらうことも期待して出題者はスイングバイを題材として選んだのかもしれません。

難易度 ★★★★☆

 計算量、思考力ともに他の専門科目と比較しても求められているレベルが高めであること、学生自身の勉強という視点から見てもあまりなじみのない分野であることから難易度は高めと判断して★4つとしました。

 但し、総評でも記載した通り、やはり航空宇宙工学分野(特に宇宙工学分野)でキャリアを積みたいと考えているなら知っておいてほしい概念であることは確かです。

解答の指針

第1問

1.

 多くの学生がこの第1問でどのように解答を書き始めるかで悩んだのではないかと思います。普通に考えれば、宇宙機が双曲線軌道上を飛行しているので、運動方程式を立式して離心率との関係性を求め、それらを偏向角と関連付ければよいのですが、計算量が非常に多いのと、制限時間(大問1第あたり50分~1時間)内に他の問題も含めて解ききるのが難しくなるでしょう。

 最終的にこの問題のポイントは\[r=\frac{a(1-e^2)}{1+ecos\theta}\]

をどうやって出すか…という問いに帰結すると考えています。

 問題文上では離心率と、重力定数、惑星中心から双曲線の頂点までの距離、無限遠点での速度の関係が与えられているので、必ずしも運動方程式から導き出さなくても…いいのではないかなと…思っています。

 本問で求められているのはあくまで偏向角をV、rp、μ0、で表すことであり、離心率と左記の3つの文字との関係性は与えられていますので。

 私の提示した解答例ではひとまず上記の方針が妥当であると仮定して、幾何学的に上記の関係式を出すという案を提示させていただきました。やり方は別解も含めて2通りの導出例を記載していますので、気になった方はご確認ください。

(解法1)

 双曲線上の2つの焦点と双曲線上の位置を結んでできる三角形に対して余弦定理を使うことで上記の数式を導出するという方法です。

 正直この解法を見つけたのはたまたまです。双曲線と宇宙機の位置を色々図で書いて図形的な性質を書き込んでいるうちにひらめいたという感じでした。

(解法2)

 x,yの直交座標軸上で表現できる双曲線の数式について座標変換するという方法です。但し、求める数式を導出するために原点の設定を少しだけ工夫しました。どちらかというとこの解法2の方がオーソドックスなのかなと思いました。

 上記の数式を導出できた後は問題文で与えられた式を代入し、数学的処理を進めていくと答えが出せると思います。

2.

1の結果を基に題意を示すための不等式を作ればよいのではないかと思います。

第2問

 惑星スイングバイの前後で宇宙機の速度がどうなるかについて、図と式を用いて説明するという問題です。教科書や参考書の記述の内容を踏まえて自分なりの言葉と計算で説明すれば解けるでしょう。

 ここは教科書通りの論理展開で点がもらえるはずです。

第3問

 前問までの結果を使って地球、火星、木星のスイングバイをする際の影響評価を実施します。この手のラフな計算は実際の仕事(主にFeasibility Studyの段階で)でも使うと思うので、是非できるようにしておきましょう。

 この計算のポイントは各惑星間のスイングバイによる影響の大小評価をするという点です。つまり、与えられた数値を使ってスイングバイによる影響の大小比較をしますが、細かく計算する必要はないということです。

 数字を必要に応じて計算しやすい概算値にしたり、式の形をそろえて引き算をするなどして大小関係を求めれば制限時間内にうまく計算はできると思います。

 数式に値をすべて代入して計算を進めても答えは出ると思いますが、タイムマネジメントを踏まえると正直苦しいと思います。制限時間内に解ききるなら上記のように何かしらの計算時間を節約する方法を考えた方が良いでしょう。

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