東大 航空宇宙 専門科目について

専門科目

 こんにちは。宙野です。この記事では東大の航空宇宙工学専攻が実施する入学試験の専門科目についての情報をお届けします。

 なお、最新の受験情報は大学院が展開する入試要項も併せてご確認するようお願いいたします。

専門科目の特徴

 東京大学大学院 航空宇宙工学専攻の専門科目は以下の大問4題で構成されており、うち3題を選択して解答します。

  • 固体力学
  • 流体力学
  • 航空宇宙システム学
  • 推進工学

 試験時間は3時間で、2024年は試験2日目の午後半日で実施しています。

 なお、私が受験生だった頃は試験日程が5日間あり、専門科目は3日目でした。試験時間は3時間でしたが、午前と午後でそれぞれ3時間設定されており、非常に長丁場な試験となっていました。

傾向


【重要】
 専門科目の出題トピックの特徴として、世間で話題になっている航空宇宙分野の科学技術ネタが出題される傾向があります。例えば、昔首相官邸にドローンが落下したニュースが話題になった際にはドローンをモデル化した制御の問題が出たりもしていました。

 受験生の皆様におかれましては、普段の勉強だけでなく、航空宇宙分野の学術的な話で世間に出回っているネタは気にしておいた方が良いと思います。

 過去問を既にある程度やっている方はわかるかと思いますが、昨今の出題は2020年以前の過去問の傾向から外れるようなものが出始めています。

 特に近年(2024年直近)はSLIMの月面着陸やファルコン9のロケット再着陸、アストロスケールのデブリ回収等宇宙工学分野での話題がホットなので、軌道力学関連の出題が目立ちます。また、電気推進に関する出題も出始めているように感じました。

 そのため、過去5年間を振り返ると航空宇宙システム学においては航空機力学からの出題はほとんどないようにも見えます。私が受験生だった頃はむしろMRJ等の話題が盛んにニュースで報じられていたためか、航空機力学分野からの出題が多かったように思います。

攻略の基本方針

 東大の航空宇宙工学専攻の専門科目は他の大学と比較しても広範囲の科目を深く理解している必要があり、難易度が高いです。また、選択問題は4題中3題選ぶ必要があるので、ヤマを貼って特定の分野から逃げるというのはリスクの高い行為となります。

 出題年度にもよりけりですが、どの分野にも難易度の高い問題は出題されうるし、サービス問題が出題されることもあります。なので、受験生の皆さんはどの分野においても対策を十分に実施し、試験本番の出題内容に応じて選択科目を選べるようにしておく必要があります。

 また、自身の専門分野や履修科目の状況次第ですが、特段のこだわりがなければ専門基礎科目である数学をある程度固めてから専門科目の対策を進める方がトータルで高得点を得やすいかと思います。

専門科目の内容

 以下、専門科目の大まかな出題範囲を記載していきたいと思います。

科目出題分野内容
固体力学材料力学梁の曲げ問題
座屈
トラス構造
薄肉円筒など
固体力学
(構造力学)
薄肉補強構造
梁の微小解析など
流体力学非圧縮性流体力学ベルヌーイの式
ポテンシャル流れ
クッタ・ジューコフスキーの定理
など
粘性流体力学境界層流れ
ナビエ-ストークス方程式
剥離など
圧縮性流体力学等エントロピー
衝撃波
ランキン-ユゴ二オ
方程式
ノズルの特性など
航空宇宙システム学航空機力学滑空距離
定常飛行
誘導抵抗
安定微係数など
制御工学古典制御
現代制御
軌道力学Hill方程式
ホーマン遷移
スイングバイ
宇宙機の再突入など
推進工学振動工学ばねマスダンパ系
熱力学熱サイクル
燃焼化学など
伝熱工学伝導電熱
輻射電熱など
電磁気学電気推進
  1. 固体力学
     この分野は主に材料力学、弾性力学、塑性力学から構成されています。材料力学については、凍分野で学ぶ知識がほぼ満遍なく出るとともに、平面部材にかかる力の解析や梁の大たわみ理論、梁の微小解析などが出題されます。出題もユニークな問題が出てくるので対応に苦労しました。

    対策:
     材料力学は梁の曲げやたわみ、座屈を中心に抑える必要があります。また、梁の大たわみ理論や梁の微小解析は手順もある程度パターン化されているのでやりこめばサービス問題になると思います。中でも梁の微小解析はよく出題されていたように思います。
     この項目では航空機や宇宙機によく使われるジュラルミン、超ジュラルミン、超々ジュラルミンの特性やCFRPの特性を調べておくとよいでしょう。
     また、弾性力学や材料力学に意識が行きがちですが、塑性力学も出題範囲になっているのでカバーするようにしましょう(ただし、出題頻度はそれほど多くはありません)。
  2. 流体力学
     流体力学は多くの大学生が苦手意識を持つ分野の一つな気がしますが、東大の院試においては比較的手を付けやすい分野かなと思います。圧縮性流体力学は解答方針が立てやすい一方で、他の2分野よりも計算量が多いので計算ミスを防ぐ工夫が必要です。
     また、流体力学では実験装置に関する問題もそれなりに出るので、風洞試験装置やシュリーレン法の原理なども理解するようにしましょう。

    2.1. 非圧縮性流体力学
     ベルヌーイの式やポテンシャル流れ、クッタ・ジューコフスキーの定理などを翼理論と併せて出題してくることが多いです。但し、年によっては水の流れを解析させるものも出ており、翼理論関連しか見ていないと本番で慌ててしまうことがあるかもしれません。

    対策:
     ポテンシャル流の式変形やベルヌーイの式を用いた揚力発生の原理を復習しましょう。ベルヌーイの式は式の導出もできるようにしておくとよいと思います。この分野は翼理論と絡めて出題されることが多いので、まずはそうした観点で参考書を読みつつ、過去問に手を付けていくとよいと思います。

    2.2. 粘性流体力学
     非圧縮性流体力学や圧縮性流体力学と比較すると出題頻度はあまり高くない印象ですが、この分野もある程度解法が決まっている問題が出るので基本をしっかり押さえておく必要がありそうです。境界層流れや剥離、ナビエストークス方程式を題材としたものが主な出題範囲となります。

    対策:
     境界層流れや翼付近からの流体が剥離する原理についてよく理解しておきましょう。また、試験装置に関する出題も見受けられるので調べておくとよいかと思います。
     ナビエストークス方程式の導出や、平板を動かした際の流れの分布解析などが出るので、練習しておくようにしましょう。

    2.3. 圧縮性流体力学
     この分野は衝撃波に関する式の変形や導出に関わる問題が多く出る印象があります。また、熱力学と融合した問題も見受けられるので、この分野を勉強しておくと推進工学の勉強も多少補完できます。加えて、等エントロピー流れの理解を問う問題もよく出題されます。

    対策:
     流体力学の攻略をするなら、圧縮性流体力学の対策を先にやってしまうことをお勧めします。衝撃波の関係式は導出の流れがほぼ決まっており、式変形に習熟してさえいれば得点源にできるからです。描画や論述も出題されるので、参考書を使って計算過程で出てくる数式と図の対応づけをしておくとよいでしょう。また、試験装置の仕組みについても理解を深めておくようにしましょう。
  3. 航空宇宙システム学
     この分野は主に航空機力学、制御工学、軌道力学で構成されています。何が出るかは年度によりけりではありますが、私が受験生だった当時は午前か午後のどちらかで制御工学が出て、残りの一つが航空機力学か軌道力学になることが多かった印象があります。

    3.1. 航空機力学
     航空機力学では航空機の旋回性能や定常飛行、グライダーなどの滑空距離を導出・計算させるタイプの問題が多く出題されます。また、機体にかかる微小擾乱解析をさせるものも出題されます。いずれにせよ、この分野は出題パターンがある程度決まっており、それほど難しくないので、出題された場合はサービス問題になることが多いです。

    対策:
     まずは最も精度の高い解答が自作できそうでかつ、とっつきやすい航空機力学から対策することをお勧めします。参考書もそれなりに色々出ていますので、それらを参照しつつ解答を自作することは十分可能です。航空機力学は問題の難易度もそんなに高くないので出題された際には必ず完答するくらいの意気込みで対策することをお勧めします。

    3.2. 制御工学
     制御工学は古典制御、現代制御どちらの分野からも出題されます。題材としては衛星の姿勢制御や軌道制御に係るものが多い印象を受けます。
     古典制御工学では立式からブロック線図を用いた解析、根軌跡を利用した考察を問われるものが多いと感じました。一方で私が受験生だった頃はボード線図のようなものの出題はあまり見受けられませんでした。
     現代制御工学では制御対象に関する運動方程式の立式をした後、可制御性・可観測性を問うものがほとんどで、最適制御理論や正準変換に関するトピックはほとんど出ていないという状況です。

    対策:
     古典制御工学の出題範囲が広めですが、まずは制御対象の立式からブロック線図を作れるようにしましょう。また、ブロック線図を用いた伝達関数の導出や根軌跡、安定余裕の計算ができるようにしましょう。
     現代制御工学は制御対象の運動方程式の立式から可制御性、可観測性を評価するまではワンセットで出ることがほとんどなので、この分野に集中してまずは対策を立てるとよいでしょう。
     なお、制御工学の問題の構造として最初の小問で制御対象の運動方程式を立式させるタイプのものが多く、ここで立式に失敗すると、この大問をすべて落とすことになるので、序盤の小問は慎重に解答することを強くお勧めします。

    3.3. 軌道力学
     航空宇宙システム学ではこの分野が鬼門になることが多いです。面接試験の控室で内部生の話を聞いていた限りでは、内部生であってもやはり敬遠する人はそれなりにいるようでした。また、当時は参考書もわかりやすいものがあまりなかったので勉強には非常に苦労しました。出題のトピックとしてはホーマン遷移、Hill方程式などから始まり、惑星スイングバイなどがトピックとして出題されます。(筆者は正直この分野の対策にかなり苦労した経験があり、試験本番では軌道力学が出題された際のトピックがホーマン遷移じゃなければ捨てる気でいました。)

    対策:
     軌道力学は学部で航空宇宙工学分野の勉強をしていない人にとってはなじみがなく、自力での勉強もかなり難しいので、まずは他の分野の対策を急ぎましょう。本番までに時間的な余裕があるなら、この分野の対策をするとよいと思います。
     比較的とっつきやすい、2体問題、ホーマン遷移軌道から勉強を始め、Hill方程式やスイングバイ、3体問題にステップを進めていくとよいと思います。(正直、残り時間次第ですが、思い切って捨てるのも手です。ご自身でスケジュールと相談して判断いただくのが良いと思います。)
     なお、昨今はアストロスケールをはじめ、デブリ回収に向けた技術実証などが盛んにメディアで報じられているので、ランデブー・ドッキング等のデブリ回収・除去に係るトピックは出題されやすいかもしれません。
  4. 推進工学
     この分野はよく総合問題と言われています。というのも出題されるトピックが、熱サイクルや振動工学に始まり、燃料の燃焼や伝熱工学に関する出題がされますが、圧縮性流体や固体力学の分野と融合されることがあるからです。他の専門分野を固める前に推進工学の対策に手を出すと難しいと感じるかもしれません。

    4.1. 振動工学
     振動工学では、ばねマスダンパ系やばねマス系の振動解析の他、弦の振動解析をするタイプのものが出てきます。ばねマスダンパ系やばねマス系はロケットの推進の仕組みをモデル化したものや航空機のエンジンの仕組みを考えさせるタイプのものも出てきます。特別難しい問題もあまり見ないので、しっかり対策すれば十分得点していける分野だと思います。

    対策:
     推進工学の分野の中では優先度を上げて対策することをお勧めします。他の分野と比べて比較的対応しやすい分野であり、完答も十分狙えると思います。市販の参考書や過去問で運動方程式の立式や固有値、固有角振動数の算出などを練習しましょう。

    4.2. 熱力学
     この分野からは圧倒的に熱サイクルに関する出題が多いです。特にブレイトンサイクルは航空機のエンジンにも使われている熱サイクルなので、出題頻度が特に高いです。
     問題の構造としてはある題材の熱サイクルが出題され、序盤の小問で未知の状態量を既知のもので表現させます。次にP-V線図やT-S線図を用いた考察や描画をさせます。(問われなくても答案には書いておいた方が良いでしょう。)そして最後に熱効率を求めたり、題材となっている問題の考察をさせたりするものが多いです。
     あとは圧縮性流体力学と融合した問題も出ます。

    対策:
     ブレイトンサイクルを足掛かりにして、有名どころの熱サイクルは一通り名前と状態変化はすべて整理して、P-V線図、T-S線図、熱効率をすぐに求められる状態にしておきましょう。また、圧縮性流体力学と併せて状態量の式変形の練習をしましょう。
     この分野も振動工学と同様、得点源としやすい分野なので、よく練習しておくことをお勧めします。

    4.3. 伝熱工学
     伝熱工学はここで1項目設けましたが、ほとんど出ません…。私も過去10年ちょっとくらい過去問をやりましたが、出てきたのは1,2回だけでした。本分野は優先度を落として、他の分野の対策がある程度できたタイミングで対応するのが良いと思います。

    対策:
     この分野は前述のとおり、ほとんど出題された実績がないので、まずは他の出題分野に注力しましょう。手を付けたいのであれば、伝導伝熱、対流伝熱、輻射伝熱の考え方をおさらいするところから始めるとよいと思います。

    4.4 電磁気学
     この分野は最近追加された専門分野であり、筆者が受験生だった当時はありませんでした。そのため、本項目の対策情報については本サイト以外でも別途個別に調べていただくとよいと思います。
     但し、昨今では衛星に搭載される推進システムとして電気推進システムが話題に上がることも多く、研究分野としても盛んになってきているので、出題はされやすくなってきているのではないかと考えています。
     まずは、電磁気学の一般的な基礎事項を抑えるとともに、衛星の電気推進システムの仕組みをよく理解しておくことが重要だと考えています。

    対策:
     電磁気学は電気推進システムが昨今話題に上がりがちなので、伝熱工学よりも優先して対策をした方が良いと思います。残り時間に余裕があれば伝熱工学をフォローする流れがいいのかなと考えました。

 長くなって今いましたが、今回は専門科目で出題される各分野の概要を説明しました。東大の航空宇宙工学専攻の専門科目は他の大学と比べて難易度は高いものの、トピックとして興味深いものも多いです。ぜひ、今後の研究活動を見据えて勉強に臨んでもらえればと思います。

 では、今回の記事はここで終わりにしたいと思います。

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