東大院 航空宇宙工学専攻 制御工学対策

航空宇宙システム学

 こんにちは。宙野です。この記事では東京大学大学院 航空宇宙工学専攻の院試の専門科目である制御工学に関する対策をまとめた情報を提供します。

 なお、この記事では古典制御工学と現代制御工学の2分野について記載していきます。

 専門科目の試験の全体概要については「東大 航空宇宙 専門科目について」という記事でまとめているので、そちらも参考にしていただければと思います。

出題の傾向

 昨今ではSLIMの月面着陸やH3ロケットの打ち上げ成功、アストロスケールによるデブリ回収やi-Spaceの月面着陸挑戦などが世間を騒がせていることもあり、宇宙機の制御や軌道力学関連のトピックからの出題が目立ちます。

 私が受験生だった頃にやっていた過去問について、1998年から2018年あたりのものを見る限りでは主に以下のトピックを中心とした出題がされていました。

  • チェイサーとターゲットの相対運動
  • リアクションホイールを用いた衛星の姿勢制御
  • 熱制御のモデル解析
  • 線形離散時間システムの制御解析
  • 外乱が入る制御システムの安定性
  • ばね-マス系の振動制御
  • PID制御の設計と動的システムに関する考察
  • 線形の定数行列ダイナミクスシステムの考察
  • スピン衛星の姿勢安定条件
  • 鉛直面内での飛行物体に関する制御考察
  • ロケットの姿勢と角運動量

 結構いろんなトピックが出ているように見えますが、それぞれのトピックの小問を見ていくと結局は題材になっている系の運動方程式を立式させ、それを伝達関数にして安定性解析をしたり、根軌跡を描かせるような問題や、状態空間表現にした後、可制御性や可観測性、安定性検討をさせるものがほとんどです。

 古典制御分野では伝達関数表示、システムの安定性評価、PID制御、根軌跡、ナイキスト線図、周波数応答関数導出あたりが頻出分野となります。一方でボード線図、位相余裕、ゲイン余裕に関する問題はほとんど見ないですね…。安定性評価にはグラフを描かせるものもそれなりに出るので、注意しましょう。

 現代制御では、状態空間表現、可制御性、可観測性の評価、漸近安定あたりはよく出題されますが、正準変換や最適制御理論に関する問題は見たことがないです。

 その年によりけりですが、第一問で運動方程式を立式させるタイプの問題が出た場合、立式に失敗すると、以降の小問が全滅するので、特に注意が必要です。

 制御工学は、軌道力学、航空機力学と併せて、航空宇宙システム学から出題されます。そのため、制御工学の出題は前述の2分野と競合することになるので、過去問のサンプル的には他の専門科目と比べると少なめかもしれません。

 ただ、昨今の産業的な盛り上がりを踏まえると、この先も数年は制御工学分野の出題頻度は高めの水準を維持するのではないかと考えています。

難易度は?

 東大の制御工学分野の出題は他の大学院入試の出題内容と比較すると癖の強い問題が多い印象を受けます。

 東大の場院試の特徴としては、そもそも制御対象となる題材の説明が問題の最初に提示されることが多く、受験生はこの問題設定を基に運動方程式を立式後、制御工学的な評価を要求され、最後に実機搭載を想定した論述や安定性のグラフ描画などが求められます。

 一方で、他大の院試で出題される制御工学は、あるシステムについてブロック線図や伝達関数、運動方程式が提示された状態で制御性能の解析をさせるものが多いです。

どんな参考書がお勧め?

 古典制御工学としては主に以下の2冊を利用していました。

 ・古典制御論[吉川 恒夫](コロナ社)

(出典:Amazon.co.jp)

 この本は名古屋大学の古典制御工学の授業で教科書指定されているものでした。古典制御工学で学ぶ内容が網羅されていて説明も詳しいので、制御工学において東大の院試対策を進める際に役立ちました。ただ、問題演習は巻末の略解しかないので、演習を積もうとするとこの本では少しやりづらさはあります。

 ・PID制御の基礎(初めて学ぶ) [江口 弘文] (東京電機大学出版局)

(出版:Amazon.co.jp)

 2冊目にお勧めするのが上の「PID制御の基礎」という本になります。この本は1冊目の本と同様、古典制御工学で学ぶ各分野は一通り網羅されているものの、説明がより簡便になっているものになります。1冊目の本がわかりづらいと感じるならこの2冊目の本からやり始めるのをお勧めします。

 この本は問題演習が豊富で解説もわかりやすいので、演習を積みながら基礎固めをしたい方には特におすすめです。また、この本の中で使われているVBAプログラムがサンプルとしてダウンロードできるようになっており、問題演習だけでなく学習した内容をプログラムをいじることで理解を深められるようになっています。

 これは持論ですが、勉強を進めるにあたり、問題演習を積むのは重要だと思うものの、プログラムによる解析で結果の変化を視覚的に見るような活動は学習内容の理解を深めるのに非常に役立つと感じています。本科目の勉強に時間的余裕があるならぜひいじってみて欲しいと思います。

 続いて現代制御工学ですが、こちらも以下の2冊を紹介しておきます。

 1冊目は以下の「現代制御論」というものです。例によって名古屋大学の現代制御工学で教科書指定されているものになります。

 ・現代制御論[吉川 恒夫] (コロナ社)

(出典:楽天ブックス)

 こちらは、古典制御工学の1冊目に紹介した本と同じような位置づけの本になります。現代制御工学で学ぶ分野は一通り網羅されており、説明もそれなりにわかりやすいので、受験対策で役立ちました。ただ、この本も演習は略解しかないので、やりづらかったですね…。

 ・はじめての現代制御理論 改訂第2版 [佐藤 和也/下本 陽一/熊澤 典良] (講談社)

(出典:Amazon.co.jp)

 これもだいぶわかりやすかったですね。何より例題が豊富で演習を積むうえで非常に重宝しました。ただ、正準変換については記述がなかったので、現代制御理論の細かな内容をフォローしていきたいと感じているなら、この本をやりこむだけでは不十分だと思います。

対策

 まずは古典制御工学から固めていくとよいと思います。伝達関数の定義とブロック線図の操作方法、システムの安定性評価、PID制御、根軌跡、ナイキスト線図、周波数応答関数導出あたりを中心に参考書で知識を固めましょう。

 演習量を稼ぐために参考書や大学の図書館が保有している専門書を漁って演習量を積むとよいと思います。但し、この記事でも紹介した通り、東大の院試の特徴としてシステムのモデル化(運動方程式の立式と伝達関数の導出)を要求されるので、そういった観点での演習も積みましょう。

 現代制御工学も頻出分野である状態空間表現、可制御性、可観測性の評価、漸近安定あたりを優先して理解を深めるようにしましょう。

 状態空間表現も運動方程式の立式から要求されることが多いので、システムをモデル化する演習を積んでおくと制御工学で全滅するリスクを下げられると思います。

その他注意事項

 制御工学分野は特に線形代数やラプラス変換、常微分方程式との関わりが深く、これらの分野を先に固めておく必要があります。

 また、東大の院試問題の特徴として、制御工学に関する知識を問うだけでなく、ここで学ぶ理論が実際の航空機や宇宙機の姿勢制御、軌道制御にどのように適用されているかを考えさせる問題が出題されますので、日頃からどのようなところで利用されているか注意するようにしましょう。

 衛星関連の話に焦点を当てると、衛星をスピンさせることで姿勢を安定させるものやリアクションホイールを用いた姿勢制御をするものがあるので、そうした姿勢制御の原理を確認するとよいでしょう。

 また、ロケットの姿勢制御や飛行機の姿勢と操縦方法についても調べてみると理解が深まるととともに論述力が上がると思います。これは一朝一夕ではなかなか身につかないので日頃から少しずつやっているとよいかと思います。

 本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 今日はここまでにしましょう!ではまた次回!

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