こんにちは。宙野です。この記事では東京大学大学院 航空宇宙工学専攻の院試の専門科目である材料力学及び固体力学に関する対策をまとめた情報を提供します。
なおこの記事で呼んでいる固体力学ですが、大学によっては弾性力学+塑性力学や構造力学などと呼ばれてもいるようです。
専門科目の試験の全体概要については「東大 航空宇宙 専門科目について」という記事でまとめているので、そちらも参考にしていただければと思います。
出題の傾向
東京大学大学院 航空宇宙工学専攻の材料力学と固体力学はかなりバライエティに富んだトピックが出題される印象を受けます。
私が受験生だった頃にやっていた過去問を振り返ると、具体的には以下のようなトピックが出題されていました。
- 梁の曲げ、せん断、ねじり
- 組み合わせ応力
- モールの応力円
- 組み合わせ梁
- カスティリアノの定理
- エアリの応力関数
- 梁の大たわみ理論
- 梁の座屈
- 平面応力
- トラス構造
- 熱応力
- ラーメン構造
- 薄肉円環
- 弦の振動
- トレスカの降伏条件と塑性不安定
- ジュラルミン、超ジュラルミン、超々ジュラルミンの特性
- 三角形状片持ち梁とエアリの応力関数
- チューブ構造片持ち梁
- 薄肉円筒
- 軸力部材と正方形薄板、コンプリメンタリ・エネルギー最小の定理
- 対称サンドイッチ梁
- 軸対称平面応力問題
H11年~H25年あたりの出題履歴を振り返りましたが…圧倒的トピックの広さ 笑
とはいえ、中でもよく見かけたのは梁の大たわみ理論、薄肉円筒辺りでしょうか。熱応力や軸対称平面応力問題などは稀に見る程度、弦の振動は固体力学分野で特に出るというほどではないものの、推進工学での出題も見かけるので、要注意です。
また、材料力学や固体力学の専門知識を深めるだけでなく、航空機や宇宙機でよく使われる材料の特性についても勉強しておく必要があると考えます。
宇宙開発産業で働いている身としては、アルミニウム、ジュラルミン、超ジュラルミン、超々ジュラルミン、CFRPの特性はぜひ押さえておいた方が良いと思います。
いずれも軽量で頑丈な材質となっており、これらを加工してハニカムパネル構造やアイソグリッド構造にして機体に適用するので、加工法もセットで勉強するとよいと考えています。
難易度は?
私の過去の経験から申し上げますと、この分野の対策は難易度が高めなのではないかなと考えています。というのも出題傾向で提示した通り、扱っているトピックの幅が広いからです。加えて、他の分野と比較すると使いやすい参考書があまりないことを理由としてあげたいと思います(特に弾性力学)。
また、過去問の内容を振り返ると、教科書に出てくる理論の理解だけでなく材料そのものに関する知識を問う問題も出てきます。
他の大学院の入学試験では通常材料力学で学習する範囲の基本的な問題が出題されることが多いですが、東大の航空宇宙工学専攻としてはさらに弾性力学、塑性力学分野の学習事項まで踏み込んで対策する必要があることも難易度を上げている要因の一つではないかと考えています。
どんな参考書がお勧め?
色々ありますが、私が過去問の解答を自作するための力をつけるまでに利用した参考書を順に列挙していきたいと思います。
まず1冊目に利用したのが以下の参考書でした。
・改訂新版 図解でわかる はじめての材料力学[有光 隆] (技術評論社)
(出典:Amazon.co.jp)
材料力学界のマセマと勝手に名付けていますが、材料力学の最初の勉強としてはこの本をやることを強くお勧めします。
定期テストでもお世話になりましたが、図やグラフが豊富で材料力学で学ぶ考え方がイメージしやすく初学者が材料力学分野を一通り学習するにはうってつけかと思います。私自身、この分野が苦手で公式もすぐ忘れてしまいがちだったので重宝しました。
次にお勧めするのが以下の参考書です。
・優しく学べる材料力学第3版[伊藤 勝悦] (森北出版株式会社)
(出典:Amazon.co.jp)
この本はどちらかというと演習メインの参考書です。1冊目は本の大半が材料力学の説明にページが割かれていたのに対し、2冊目は演習問題を中心とした構成になっています。解説は図やグラフが豊富で式展開も丁寧に記述されているので十分独学していける本となっています。
固体力学の参考書としては以下を使っていました。
・弾性力学(工学基礎講座7) [小林 繁夫/近藤 恭平] (培風館)
(出典:Amazon.co.jp)
正直…この本をお勧めするかどうかは相当迷いました…。この本は固体力学分野で学ぶ理論の説明が網羅されていますが…説明がかなりわかりづらい、式変形もしれっと微小近似していたりするので読み解くのに時間がかかります。…なので、この本を使って独学するにはそれなりに労力が必要となっています。
ただ、それでも私がこの本をお勧めする理由は…過去問の解答作成で役立つことが多かったからです。また、東大の航空宇宙工学科が教科書指定していることもあり、この本をやりこめば院試の対応力があがること間違いなしなのです。
過去問の解答を自作するうえで色々な参考書を漁りましたが、結局この本に戻ってくることが多かったので、この記事でお勧めすることにしました。繰り返しますが、この本は難易度が高いので最初に材料力学分野をはじめ、もう少しわかりやすい参考書を使って基礎固めをしてから手を出すとよいと思います。
ちなみに名古屋大学もこの参考書が教科書指定されていました。
最後にお勧めするとっておきの参考書が以下です。
・東京大学 2008~2017 大学院入試問題で学ぶ詳解 材料力学演習 [伊藤 勝悦] (養賢堂)
(出典:Amazon.co.jp)
…あるんですよね…なぜか材料力学については東大の大学院入学試験の問題が解説付きで売ってるんですよ!!!(まぁ、多くの問題は機械工学専攻の問題ですが)
学科の違う問題がほとんどではあったものの、大いに参考になりました。お気づきかと思いますが、上記はあくまで演習書なので、材料力学、固体力学分野で学ぶ理論をある程度身に着けた後は過去問の解答自作と上記の院試問題集をやるのでいいと思います。
私は院浪をしていたので、他にも「機械系大学院への四力問題精選」などもやっていましたが…多くの受験生は3月や4月頃から院試の勉強をすること、他の分野の勉強も並行して進めることを考えると、上記の参考書で十分かなと感じます。(もちろんやるに越したことはないんですけどね…。)
材料力学分野の特徴としては学問として成熟しているためか、他の専門科目と比較しても色々な参考書が出ている気がします。ただ一方で固体力学分野の参考書選びには苦労したという感じでした。
対策
正直この分野の対策が一番苦労しました…。やりこんだ参考書も一番多かった気がします。繰り返しますが、この分野で解答を自作できるようにするにはまず材料力学の分野から固めていくことを強くお勧めします。
固体力学は材料力学で学ぶ考え方を基礎にして理論が発展しているので、焦って並行して勉強を進めたり、先に固体力学を学習しようとすると、(この分野がよほど得意でない限り)詰みます。
なので、まずは材料力学の基礎を固めてから、固体力学分野の学習と演習をしていきましょう。
受験生の勉強の指針としては過去問の解答作成とそれを使った演習が最優先だと思うので、ある程度基礎を抑えた時点でどんどん解答の作成を進めた方が良いと思います。
解答作成の上で詰まるようなら原因を分析して特定の分野に焦点を当てて参考書で演習を積むか、解答作成を中断して演習による問題対応力を底上げするかを判断するのが良いと思います。
その他注意事項
材料力学を勉強するうえで最も苦労したのが…部材にかかる各種応力や曲げの定義です!!!
これが参考書によって違ったりするので、参考書ごとに解答の符号が異なっていることがままありました。(本当にこれ良くないと思うんですよね…)
皆さんがこの分野の勉強をする際には自分の中で部材にかかる力の定義の仕方を予めしっかりと決めて立式できるように整理するとよいと思います。(参考書に合わせているとかえって混乱すると思います。)自分の決めた定義と違う定義で計算をしている参考書はやらないというのも1つの手かもしれません。
また、この分野は座標軸の変換や、線形代数、常微分方程式、偏微分方程式が目白押しなので、左記の分野を事前に攻略しておかないと演習を積むのが苦しくなってきます。
今回も長文となってしまいました。申し訳ございません。
最後まで読んでいただきありがとうございます。専門対策シリーズのラストは満を持しての軌道力学になります。お楽しみに!
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