東大院 航空宇宙工学専攻 熱力学・伝熱工学対策

推進工学

 こんにちは。宙野です。この記事では東京大学大学院 航空宇宙工学専攻の院試の専門科目である熱力学及び伝熱工学に関する対策をまとめた情報を提供します。

 専門科目の試験の全体概要については「東大 航空宇宙 専門科目について」という記事でまとめているので、そちらも参考にしていただければと思います。

出題の傾向

 まずは熱力学から

 東京大学大学院 航空宇宙工学専攻の熱力学は圧倒的に熱サイクルに係る問題と、等エントロピー流れに係る問題が多いです。というのも、熱サイクルはエンジンの性能評価をするうえでよく利用しますし、エンジン内を流れる燃料の流体力学解析は推進工学分野の研究対象としても重要な要素となっているので、当然と言えば当然なのかなと思います。

 私が受験生だった頃にやっていた過去問を振り返ると、具体的には以下のようなトピックが出題されていました。

  • 伝導伝熱と可逆熱サイクル
  • ポリトロープ変化と熱サイクル
  • シリンダー内の可逆的な圧縮と非可逆的な圧縮による垂直衝撃波
  • 配管内の等エントロピー流れ
  • 水撃の解析
  • 化学燃料の燃焼
  • ブレイトンサイクルの特性
  • サバテサイクル
  • カルノーサイクルとブレイトンサイクル
  • ジェットエンジンと衝撃波圧縮及び等エントロピー流れ

 色々書きましたが、等エントロピー流れはジェットエンジンや配管等のトピックに絡めて出題してくる傾向にありました。この手の問題は衝撃波が生じるような圧縮性流れと等エントロピー流れの違いを見るような問題になっているタイプが多いですね。

 熱サイクルは圧倒的にブレイトンサイクルが題材として取り扱われることが多いですが、他の有名どころの熱サイクルも少し出題されている印象です。

 また、非常に出題頻度は低いですが、燃焼化学に関する出題が出ている年もありました。

 続いて伝熱工学ですが、こちらは非常に出題頻度が低く、私が受験生だった当時過去問をやっていてもH11年~H25年あたりを見ても出題されたのはH24のたった1回だけでした。このときは伝導伝熱を題材にしたものが熱サイクルと融合する形で出題されていました。

難易度は?

 全体的には過去問でよく出題されているような等エントロピー流れや衝撃波、熱サイクルに関わる問題が出題される分においてはさほど難易度は高くないように見受けられます。というのも、等エントロピー流れや衝撃波は圧縮性流体力学の対策をしていれば十分補完できる内容であることが多いですし、熱サイクルについても熱効率の算出やP-V線図、T-S線図が一通り描ければ大体の問題は対応できるからです。

 但し、航空機や宇宙機のエンジンの仕組みを題材に出題することを意識しているためか、問題で問われていた計算の考え方や計算結果が前述のエンジンにどのような影響を及ぼすかを論述させるような問題も出てくることもあります。

 一方で、伝熱工学や燃焼化学など、あまり出題頻度的に高くないトピックが出てきてしまうと、当該分野の難易度は上がってきてしまうという感じでしょうか。受験生の試験対策スケジュールを踏まえると出題頻度の低いトピックは対策の優先度を落としている人が多いと予想されますので、

どんな参考書がお勧め?

 熱力学の方はまず、マセマで基礎的な知識を固めるという作業をしていました。

 ・熱力学キャンパス・ゼミ 改訂7[馬場 敬之] (マセマ出版社)

(出典:Amazon.co.jp)

 数学分野の対策で大活躍していましたが、熱力学や電磁気学といった物理分野のシリーズにおいても非常にわかりやすい説明が提供されており、初学者はもちろん、大学院受験生も学習する際には大いに役立つ本だと考えます。

 但し、上記の参考書だけでは東大の院試対策としては対応しきれないので、マセマで基礎固めをした後に以下の参考書を私はやりこんでいました。

 ・工業熱力学 (基礎編) [石井 一洋] (東京大学出版会)

(出典:Amazon.co.jp)

 この本はマセマよりも詳細な熱力学分野のトピックと説明が提供されています。それほど分厚くないにもかかわらず、熱サイクル、ポリトロープ変化、燃焼化学、等エントロピー流れなど、熱力学を学習するうえで必要なトピックが網羅されているので、1冊やりこんでおくと大分力がつくと思います。

 ここまでの参考書をやったら、過去問の解答を自作していき、詰まるようなら適宜大学の図書館などで保管されている専門書を漁っていくとよいと思います。

 なお、マセマシリーズでは熱力学の演習書が存在しますが、私はやりませんでした。内容が基礎的すぎるのと、扱っているトピック的に過去問の解答自作をするうえでは不十分と考えたためです。なので、2冊目に紹介した工業熱力学での演習を積む方が解答を自作するまでの時間を短縮できると判断しました。

 伝熱工学はほとんど対策していませんでしたが、大学の授業で以下の本が教科書指定されており、内容もわかりやすかったのでお勧めします。

 ・伝熱工学(JSMEテキストシリーズ)[大型本][日本機械学会]

 

(出典:Amazon.co.jp)

 最低限、伝導伝熱、対流伝熱、輻射伝熱の考え方と計算式が使いこなせていればまずはいいかなと思います。

対策

 まずは出題頻度が高い熱サイクルとそこに係る熱力学分野の知識固めをしましょう。マセマなどの参考書で基礎を固めたら、東大の過去問の解答自作や類似トピックを扱った問題を参考書等でやり進めましょう。

 熱サイクルについては有名どころの熱サイクルは状態変化も含めてすべて整理し暗記しておきましょう。また、各熱サイクルのP-V線図、T-S線図の図示、熱効率の算出ができるよう練習しましょう(熱サイクルが出題された場合、ほぼ確実に熱効率の算出はさせられます)。

 有名どころの熱サイクルとしては最低限以下のものを覚えておくとよいと思います。

  • カルノーサイクル(基礎)
  • ブレイトンサイクル(超頻出)
  • オットーサイクル
  • ディーゼルサイクル
  • サバテサイクル
  • スターリングサイクル

 等エントロピー流れ、衝撃波を伴う圧縮性流れは圧縮性流体力学の対策で補完できるので、先にそちらを対策するのが良いでしょう。詳しい対策については「東大院 航空宇宙工学専攻 圧縮性流体力学対策」の記事でまとめているので、ご覧いただければと思います。

 伝熱工学については、前項のお勧め参考書の欄でも記載しましたが、伝導伝熱、対流伝熱、輻射伝熱の算出と考え方をおさらいしておきましょう。

 実は宇宙機という観点では伝熱工学的には、伝導伝熱と輻射伝熱が特に重要です。日照、日陰で温度差が非常に大きく、宇宙機に与えられる熱入力は基本的に輻射伝熱になり、宇宙機を構成する各コンポーネントの発熱・冷却処理は伝導伝熱により行われるためです。

 東大対策を考えるうえでは優先度が落ちるのかもしれないですが、そもそも将来的に宇宙機の設計開発をやりたいと思っている方はぜひ勉強していただきたいトピックだと私は感じています。

その他注意事項

 推進工学は他の専門科目分野と融合されて出題されることもあり、他の専門科目をある程度固めてから手を付けた方が効率的に対策できるのではないかと考えています。

 とはいえ、本記事に関連するトピックとしては圧縮性流体と関連性があるので、強いて先に対策すすべき科目があるとしたら、圧縮性流体力学の対策優先をお勧めします。

 熱サイクルについてですが、よくある問題の構造としては以下のような流れをとることが多いです。

  • 最初に与えられた状態量を基に各サイクルの遷移結果を熱力学第一法則を使って計算させる。
  • P-V線図やT-S線図を描かせる
  • 熱効率を導出させる
  • 実際に利用されている航空機や宇宙機のエンジンモデルとの差分について計算・論述させる。

 上記は割と親切な誘導になっている例です。問題の構造的には教科書に載っている典型的な熱サイクルを話題にあげ、いきなり熱効率を求めさせた後に実際に航空機や宇宙機などが使っている熱サイクルモデルを紹介して、比較検討させる…ような流れを想定しておくとよいと思います。

 本日も長くなってしまいましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。

 次回は制御工学にしましょうかね…。ではまた次回!

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