東京大学大学院 航空宇宙工学専攻 平成18年の流体力学(午後)についての総評と難易度、解答の指針についてまとめたいと思います。
本問の収録先商品は以下です。
流体力学<https://gakumon-tobira.stores.jp/items/679623a79b4c1904ae5e62aa>
総評
本問は非圧縮性流体力学からの出題となりました。取り上げられたトピックは複素速度ポテンシャルとジューコフスキー変換ですね。いずれも非圧縮性流体力学の分野では理解すべき重要トピックだと思いますので、しっかり復習と周辺知識の確立をしたいところです。
本問では、序盤で迎角付きの流れの中に円柱を置いた時の循環Γの算出をさせてきています。
中盤以降は円柱物体をジューコフスキー変換で翼型へ変換し、その翼周りの流れを考察させるというものです。
小問を多めにすることで部分点を取りやすくしているようですが、トータルで見るとそこそこの計算量を要求されているので、計算ミスに注意しましょう。
この手の問題は適宜検算をはさみながら問題を解いていくことをお勧めします。すべての問題を解ききってから検算をしたときに序盤で計算ミスが発覚すると、以降の問題がすべてやり直しになることも珍しくないためです。
そうしたミスを序盤にやればやるほど、一気に解答時間が苦しくなってきます。注意しましょう。
難易度★★★★☆
基本事項を取り扱っているとはいえ、複素速度ポテンシャルの式が長いので、制限時間が見直し込みで約1時間というのは少ししんどいかもしれません。
非圧縮性流体力学を学ぶ上では必ず学習する頻出トピック事項なので、是非完答を狙ってほしい問題ではあります。しかしながら、計算量、その複雑さを考慮すると少し難易度は高めなのかなと感じたので★4つとしました。
解答の指針
第1問
1.
複素速度ポテンシャルの式が問題文で与えられているので、まずはこの式をzで微分していきましょう。式の整理を進めていき、最終的に実部と虚部に分解して式をまとめましょう。
問題文では円柱状の淀み点が1つという条件が課されているので、これを上式に反映すれば循環が計算できると思います。
2.
上記と同様の戦略が取れます。淀み点が2つであることに注意して、1と同じようにして計算を進めましょう。
この1,2を通して、出題者は円柱状に存在する淀み点の違いとその影響に対する理解を受験生に確認している気がしますね。
第2問
ここからは第1問の式をジューコフスキー変換することを考えます。
1.
第1問の円柱がジューコフスキー変換されるとどのような形になるかを聞いてきています。結果を知っている人はいきなり図形の形を答えたくなるかもしれませんが、なぜそうなるのかを数式で説明する必要があります。
第1問の1と同様に複素数を実部と虚部に分けて整理を進めていくとよいでしょう。
2.
これもお決まりの問題ですね。複素速度ポテンシャルwをζで微分しましょう。問題文で本問を解くための条件が記載されているので、その情報を使って式を整理してみてください。
3.
これは単に第2問の1の計算でc=Rを代入して計算を進めればいいだけです。
4.
本問から計算が特にしんどくなってきます。第2問の2にz,u,v,cについてそれぞれ本問の条件を当てはめて式に反映していきましょう。
計算を進めていくとζ平面での速度が求まるので、この時の速度がθ→0の時、平板の右端で流体の速度が無限大になることを数式で示せればよいですね。
5.
平板の揚力係数を求める問題です。揚力係数を求めるには、揚力と動圧、代表面積が必要となります。
揚力の導出については、今回は2つの解法をご紹介します。
(解法1)
図形的な関係を基に導出する。
この解き方はオーソドックスですが、計算が結構しんどいです。平板に対して流れの迎角がαだけついているので、揚力自体も平板からαだけ傾いているはずです。今、求めたいのはη方向の力なので、これを計算により求めていくことになります。
流体の無限遠点での速度、圧力、流体の密度、平板周りのξ方向の流体の速度(第2問の4で求めている)がわかっているので…あの定理が使えますね!!!
(解法2)
クッタ・ジューコフスキーの定理を使う。今、流体は2次元平面の完全流体なので、この定理が使えます。
気づいた方はラッキーでした。おめでとうございます。
この解法を使った方は大分時間節約ができそうです。
動圧と代表面積は既に物理量としてわかっているので、後は揚力係数の定義式に代入して整理すればよいでしょう。
代入後はもう一工夫必要ですが、ここはノーヒントとしておきましょう。ちょっと考えてみてください。
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